大阪高等裁判所 昭和41年(行コ)87号 判決
主文
原判決を取り消す。
被控訴人の請求を却下する。
訴訟費用は第一、二審とも参加費用を含め被控訴人の負担とする。
事実
第一、当事者の求めた裁判
一 控訴代理人
原判決を取り消す。
被控訴人の請求を棄却する。
訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 被控訴代理人
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
第二、当事者の事実上の主張と証拠関係
次に記載するほかは、原判決の事実摘示と同一であるから、ここに引用する。
(事実関係)
控訴人の補助参加代理人
別紙のとおり陳述した。
(証拠関係)(省略)
理由
一、本件土地に対する自創法にもとづく買収計画に取り消し得べき瑕疵があるかどうかの判断はしばらくおく。
二、補助参加人池田弥三郎が本件土地を時効によつて取得したかどうかについて判断する。
成立に争いのない丙第一ないし第三号証と弁論の全趣旨によると、参加人は、昭和二四年三月二二日、控訴人から、本件土地について、昭和二三年一〇月二日を売渡期日とする自創法一六条による売渡通知書の交付を受けてその代金を支払い、昭和二五年五月一一日受付をもつて同条による売渡を原因とする所有権移転登記手続をすませたことが認められ、この認定に反する証拠はない。
そうすると、補助参加人は、そのころから、本件土地を所有の意思をもつて平穏、公然、善意に占有したと推定すべく、補助参加人は、政府から農地として売渡しを受けた以上、売渡しによつて自己が所有権者になつたと信じるのは当然のことであり、特段の事情のない限り、補助参加人は、占有のはじめ無過失であつたわけである(最判昭和四一年九月三〇日民集二〇巻一五三二頁参照)。
被控訴人は、特段の事情について、なんら主張立証しない。
以上の次第で、補助参加人は、昭和二五年五月一一日ごろから本件土地を占有し、一〇年を経過した昭和三五年五月一一日ごろ本件土地を時効によつて取得したことになる(もつとも、本件訴が排斥されれば、自創法による買収計画には取り消し得べき瑕疵がないことになり、補助参加人の本件土地の買受も適法であることに帰すが、自己所有の土地についても時効取得できる(最判昭和四三年九月六日判例時報五三七号四一頁)から、前記結論をとることの支障にならない)。そうしてみると、控訴人の補助参加人は、本件土地の取得時効の利益を本訴で援用しているから、被控訴人の本訴は、その訴の利益を欠くに至つたものとして却下するほかない(従つて、買収計画に取消事由があるかどうかの判断をしない)。
三、そうすると、これと異なる原判決は取消しを免れないから、民訴法三八六条、九六条、八九条、九四条を適用して主文のとおり判決する。
別紙
準備書面
補助参加人時効取得の援用
本件土地に対する大阪府知事のなした買収処分は適法であるが、仮に違法であるとしても、参加人は次のとおり本件土地について時効取得をしているので、本訴においてこれを援用する。従つて、被控訴人は、本件土地の所有権を確定的に失つたのであるから、本訴提起する訴の利益を失つたものであるから、本訴えは却下さるべきである。すなわち、参加人池田弥三郎は、その先代から数十年来被控訴人から本件土地を賃借し、耕作していたものであるが、昭和二四年三月二二日大阪府知事より、本件各土地について昭和二三年一〇月二日を売渡期日とする自創法一六条による売渡通知書の交付を受け(丙第一号証)、その代金を昭和二四年四月三〇日に大阪市生野区農地委員会を通じて大阪府知事に払い込んだ。
そして、本件各土地について右売渡を原因とする所有権移転登記を、昭和二五年五月一一日受付で了えた(丙第二、三号証)。
従つて、参加人は、右売渡通知を受けた日もしくは、如何におそくとも右所有権移転登記を受けた日から本件土地を所有の意思をもつて、善意、平穏、公然、無過失に占有を始め、その占有は二十年以上継続している。従つて、おそくとも右登記を受けた日から十年を経過した昭和三五年五月一一日に本件土地の所有権を時効取得している。仮りに占有の始め過失ありとするも二十年を経過した昭和四五年五月一一日には、何れにしても時効取得している。
よつて、本訴において右時効取得を採用する。